特定秘密保護法論争が大きかったので,陰に隠れてしまった感がありますが,今月は「産業競争力強化法」も成立しました。アベノミクスの第三の矢を担うこの法律,早くも来年1月20日前後に施行が予定されています(なにかとバッシングを受ける官僚の方々ですが,経済産業省の担当部門は間違いなく正月返上で懸命に準備を進められていると思います。)。
この法律,今後2~3年の間に事業の拡張や見直しをされる事業者の方々は要チェックです。
細かな手続きなどまだ決まっていない部分もありますが,いくつかのポイントをご説明します。
1 生産性向上設備投資税制
今後2~3年の間に,生産性を高めるような設備投資(機械設備,建物,ソフトウェアなど)をされる事業者は,即時償却や税額控除などの措置を利用できる可能性があります。
設備投資を考えている企業にとっても,また,設備を売る企業にとっても,利用価値が高そうです。
<どんな設備投資が対象になるのか>
優遇措置を受けられるのは,次の2種類の設備投資です。
先端設備
「機械装置」及び一定の「工具」「器具備品」「建物(断熱材・断熱窓)」「建物付属設備」「ソフトウェア」のうち,次の要件を充たすものです。
①最新モデル
②その設備が,同じメーカの旧モデルと比較して生産性が年平均1%以上向上するものであること(ただしソフトウェアについてはこの要件は不要。)。
③一定の金額(最低取得額)以上であること
機械装置:単品160万円以上
工具・器具備品:単品120万円(単品単品30万円かつ合計120万円を含む。)
建物及び建物付属設備:単品120万円(建物付属設備については単品60万円かつ合計120万円を含む。)。
ソフトウェア:単品70万円(単品30万円かつ合計70万円を含む)
※ なお「単品」とは,一式(一回の契約において一箇所で行われた設備投資)の意味を含みます。
生産ラインやオペレーションの改善に資する設備
「機械装置」「工具」「器具備品」「建物」「建物付属設備」「構築物」「ソフトウェア」のつち,次の要件を充たすものです。
①投資計画における投資利益率が年平均15%以上(中小企業者等は5%以上)と見込まれるもの
② 最低取得額以上のものであること(具体的な金額は①先端設備と同じ。)。
<優遇措置の内容は?>
○産業競争力強化法施行日から平成28年3月31日まで
:即時償却と税額控除(5%。ただし,建物・構築物は3%)の選択制
上記②で対象となる建物も,全部即時償却できます。
また,即時償却は翌年度1年に限り繰越が認められます。
○平成28年4月1日から平成29年3月31日まで
:特別償却(50%。ただし,建物・構造物は25%)と税額控除(4%。ただし,建物・構造物は2%)の選択制
※ただし,税額控除における税額控除額は,当期の法人税額の20%が上限です。
2 中小企業・小規模事業者に対する経営計画・事業再生支援の強化
第2会社方式による事業再生の支援
収益性のある事業部門を別法人に切り出し,赤字・負債部門を残した旧会社を清算する再生手法です。
債権者等と調整を図りながら進めていくことになります。
この再生計画が主務大臣(経済産業大臣など)の認定を受けると,次の支援措置を受けることができます。
①旧会社が有する許認可について,第二会社が承継できる特例措置
②事業に必要な不動産等の移転に関し,登録免許税が軽減
③必要となる事業対価,。運転資金等について資金供給を円滑化
経営革新等支援機関(認定支援機関)による経営改善計画策定支援事業
中小企業・小規模事業者が,外部専門家(認定支援機関)の助けを得て経営改善計画を作る場合,その費用(経営改善計画策定費用,資産査定調査費用,フォローアップ費用)について,費用総額の2/3(上限200万円)の支援等を受けることができます。
3 所得拡大促進税制(いわゆる「賃上げ税制」)
法人及び個人事業主が,使用人に対する給与等の支給額を増加させた場合,増加額の10%を税額控除する制度です(法人税額10%(中小企業等は20%)を限度)。
現行の所得拡大促進税制は平成26年3月31日で終わりますが,平成26年4月1日から平成30年3月31日までは,さらに緩和された要件で優遇を受けられることになりました。
<要件緩和の概要>
①これまでは,給与等の支給額が5%以上増加しないと優遇措置を受けられませんでしたが,この5%の増加割合が緩和され,適用1~2年目は2%,,適用3年目は3%,適用4~5年目は5%,と段階的な増加要件となりました。
② これまで,「平均給与等支給額が前事業年度の平均給与等支給額を下回らないこと」が要件として求められてきました。
この要件は新制度も変わりませんが,「平均給与」の計算については,高齢者の退職と若年者の採用による平均給与減少といった事情を考慮するため,継続雇用者に限定して算定することになりました。,
4 企業実証特例制度
まだ具体的な手続き等が固まっておらず,実際のところどのように利用されるのかわかりません。
しかし,この制度(規制改革)は,「成長戦略の一丁目一番地」と位置づけられており,政府はかなり重要視しているようです。
おおざっぱにいうと,新たな事業をやってみたいが,各種規制があってできない,という場合に,その事業の所管大臣(基本的に経済産業省が担当)が,規制を所管する大臣に対して「その規制なんとかなりませんか」といって特例措置を認めてもらえるよう調整してくれる,というものです。
もっとも,特例が認められるためには,事業者として,安全確保等の代替措置を講じるなどの必要はあります。
5 グレーゾーン解消制度
新しく始めたい事業が,何らかの規制や法律に引っかからないか不明確な「グレーゾーン」にある場合,基本的に経済産業省が窓口となって,規制の所轄官庁に確認してくれる,という制度です。
これまでも,「ノンアクションレター」と呼ばれる,事前確認の制度はありました。しかし,問い合わせた内容と官庁からの回答結果が公表されることを前提としていたので,アイデアが一般に知られてしまうというリスクがあり,利用をとまどう事業者もいました。
今回の「グレーゾーン解消制度」は,原則として内容は非公表だそうです。
このほかにも,市町村による中小企業創業支援,ベンチャー促進税制,事業再編促進措置などが盛り込まれています。
弁護士法人リーガルアクシスは,経営革新等支援機関の認定を受けています。
経営改善計画の支援や,官庁との対応など,企業の皆様をサポートさせていただきます。
産業競争力強化法の施策利用についてもご協力できると思いますので,お気軽にご相談ください。
(弁護士 鈴木亜佐美)